イラストレーター修行物語 その2

友人の知人が雑誌の編集者で、今度新しい雑誌ができるから、そのイラストを
書いてくれる人を探してるんだけど、よかったらおぐらどう?と、私の友人が話を
もってきてくれたのだった。
ややややや、やるよやるよ!なんでもやるよ!と鼻息の荒くなったわたくしは、
数日後、編集部に赴いたのである。
(今思えば、「友人の知人」は私の友人のことが好きで、その子の気を引きたいが
ために私に仕事を振ってくれたのではないかと推察する。後日二人は結婚したので。)

編「今回、大井競馬場のイラストマップ制作なんですけど。」
私「はいはいはい!何でもやりますっ!」
編「サイズはB6横長の…」
私「それは何cmですかっ?」
編「・・・・・・ご存じないんですか・・・・。」
私「(やべ~、素人くさかったか?)す・・すみません。」
編「あとで改めてFAXで詳細送ります。FAX番号は?」
私「あ・・・FAXないんです・・・。」
編「・・・じゃ、電話で打ち合わせしましょう。」
私「えええと、昼間は仕事に行ってるんで、夜10時ごろじゃないと家には
戻らないんですが・・・。」
編「はあ、ハ~(ため息)、今回のイラストは4色でお願いしたいんですが・・・。」
私「あの、4色っていうと何色と何色と何色と何色使えばいいんですか?」
編「・・・・・・・・・・・(もはや無言)」

「4色」っていうのはフルカラーの印刷用語。そんなことも知らないのは
本当のド素人だけ。つうかそんなことも知らないようなのと仕事をすることに
なった編集者の顔はみるみる険しくなっていく。
あせるわたし。でもどうしても仕事がほしいんです。雑誌に掲載されたいんです。
がんばりますから、がんばりますからよろしくお願いいたします・・・・
と頭を下げまくる。

編「・・・それじゃ、1週間くらい後にラフをください。」
私「はいっ!・・・・ラフってなんですか?」
編「・・・・・・・・・・・(もはや無言)」

ラフっていうのは「こういうイラスト描きますよ」という下書きみたいなものですね。

とぼとぼと地下鉄で力なく帰途につく。呆然としているわたし。
・・・初めての仕事だからって、編集さんが手取り足取り教えてくれるわけじゃ
ないんだ・・・この事実に今更ながら気づき愕然とする。

「どうしよう、何にも知らない。イラストレーターがどういう段取りで仕事するのか。」

イラストレーターは確かに絵を描く仕事で、さらっと絵を描いて持って行けばそれで
OKなのかと思ってたのだが、実は「編集者の意図にあった絵を作る」仕事であると
いうことがここにきて初めて分かったのだ。
人の頭の中は覗いて見られないから、いろいろ話し合って(打ち合わせ)今回の
雑誌記事の意図、そしてアイキャッチとしての華やかさ、などを考えつつそのうえで自分の
個性も出してゆく。自分勝手な絵を持っていくわけにはいかないのだった。

どうしようどうしよう。分からないよ。何にも描けないよ・・・・・・。

昼間のOL業務を終え、家に帰って夜9時過ぎ。資料を探そうにも
図書館も本屋も閉まっている。何枚も何枚もラフを描き編集部に送るが
まったくOKがでない。泣きながらラフを作りやっとOKをもらって本番の
絵を2日徹夜して(もちろん昼間は会社に行く。)やっと完成して納品する。

納品は直接会社に持っていったが、もう担当の編集さんには会ってもらえなかった。
くそ忙しい激務の編集部に10分おきに質問の電話をかけるような私の顔など
もう2度と見たくなかったのであろう。当然だ。

やっと終わった「プロの仕事」だけど、私には達成感などなにもなかった。
ただ自分の力不足に涙するだけだった。

数週間が過ぎ、掲載雑誌がコンビニで発売されているのを見つけ、
緊張しながら開くと、私の絵がちんまりと載っていた。
「あああ、載ってる。本当に載ってる。」
それは想像以上にうれしく、誇らしく、店内にいる人すべてに
「これあたしが描いたんです!このあたしです!」と教えて回りたいような気分だった。
あああ、やっぱりわたしはイラストレーターになろう!絶対になろう!

そう決めたのは実は「デビュー後」なのです。

コレが私のデビュー作。笑え。↓
bcd2872d.gif

建物の稚拙さ、人物の面白みのなさ、色合いの薄汚さ、どれもこれも
まったくもって素人の落書きなのだが、これが当時のわたしの実力ってことだ。
直視しなくてはいけない。ふきだしなんか画用紙の切り張りだ。情けない・・・。

んでもって気をよくした私は、「雑誌に載ったくらいだからコレを見た編集が
ばんばんオファーしてくるに違いなし。フンガー!」といい気になっていたのですが、
電話はいっこうにならない。びっくしするほどならない。
おかしいなあ、こんなはずじゃないんだが?と思っているわたくしに、件の雑誌の
「ギャラ支払い通知書」が届く。うれしい瞬間である。
絵を描いて、雑誌に載せてもらって、その上金までもらえるなんて、なんてブラボー!
10万円くらいもらえるのかな?だって雑誌だもん!全国発売雑誌だもん!
と、ひひひひと笑いながらその支払い通知書を開けると、そこには冷たいタイプ文字で
こう打たれてあったのだ。


「おぐらなおみ様 支払い 8000円」


ええええええええええええええええええええええええええ!

(コーちゃんが起きたので続きは後日)