(イラストレーター修行物語 その5)

いかにしてイラストレーターの武器である「スピード」を手に入れたのかっ!

ムスメも2歳になり、お絵かきに興味が出てくると私と一緒に絵を描きたがりました。
んでもって皆様もご経験があると存じますが「ねえ、アレかいてー」が始まって。(LEE文調)

ムスメ「おかあたん、まんちゃん(この頃ムスメが自分のことをこう呼んだ。)がおいちいの
食べてるとこかいてー。」
わちし「あいよー(さらさらさら)こんなのでどうですか?」

                        ↓


ムスメ「ぎゃははははは!(ムスメ爆笑)。じゃあ今度は機関車トンマスかいてー。」
わちし「はいよ~とんます一丁。」

                        ↓


ムスメ「こんなのトンマスじゃないお!ちがうお!今度はねー、うさたんとまんちゃんが
まてまてーっておいかけっこしてんの。」
わちし「さらさらさら~。}

                        ↓



ムスメ「いやらー、うさちゃんこんなのじゃなくて、ぴょんぴょんてかわいいのよ。」
わちし「ぴょんぴょんってね。」

                        ↓
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ムスメ「いやいやらー!こんなのいやー!」


・・・・・とまあ、こんな感じで延々と続くわけですが、娘(クライアント)のお題に
秒単位で絵を描いていくことが今思えばものすごい修行になったわけです。
ムスメの要求を一ひねりし、尚且つ自分好みの「うひひひ」と笑える絵を
ものすごいスピードで1日に100個も200個も描いていきました。
(ムスメもよく飽きずについてきたもんだ。)
そして遊びつかれて娘が眠ってしまうと、今度は本格的な修行です。

まず雑誌をぺらぺらとめくり挿絵付きの記事をふんふんと読み、
「わたしだったらこういうイラストを描くなあ。」と思ったら実際にその絵を
描いてみて、その記事をパソコンでスキャンし、自分のイラストを貼り付けて
みたのです。イラストを描いただけでは自己満足で終わったかもしれませんが
記事にレイアウトさせることによって、自分の欠点が本当によく分かりました。
この修行も(実際には修行というより子持ちで自由に外出できないわたしの
気分転換の遊びでしたが。)じっくり何時間もかけることはできません。
ムスメが「ふひーん」と昼寝から覚めれば中断し、食事の支度中、ちょっと
手の空いたときの5分間だけ、なんて時間を見つけての作業になりました。
結果的には、これが身につき、短時間でぐぐーっと集中して絵を描くことが
得意分野となっていったわけです。

どうだい?オレのこと、少しは尊敬してくれるかい?

いやいやいや、尊敬なんてそんなそんな。拍手もやめてやめて。

そんなこんなで時々来る仕事をぐぐっと集中してこなし、自分でも多少は
満足できるイラストが描けるかな?と思った頃にやっと

「先日○○(雑誌名)でイラストを拝見しまして、ぜひお仕事をご一緒に・・。」

というメールをぼちぼちいただくようになりました。(この頃カラメル堂開設)
うううううう、うれしかったですねえ。実にうれしかった。
育児に疲れてめろめろになって、タイトなスケジュールに泣きそうになっても
「やっぱり仕事ができるってうれしい。」としみじみ思いましたです。
そして実践していくうちに、自分の得意分野は
「身近な生活の何気ない出来事をちょっとひねってくすっと笑わせる」ことでは
ないかなあと考え始めるのです。

そんな時たまたまネットで「育児経験のあるイラストレーター募集」という記事を
見つけ、イラストを送り「育児マンガ」を描くことになり(1歳から3歳のしつけかたが
分かる本)、それが、あああ、その本が一人の編集者の目に留まり「こどもちゃんれじ
ぷち・子育てリズムおぐリズム」につながっていったわけです。

・・・・ふうううう、長々と書いてしまいました。自分語りはなんと照れくさいことでしょうか。

思い返して見ると一番大変だったのは、やはり第一作目が掲載されるまで、が
一番長くつらかったです。だって本当にどうやっていいか分からなかったから。
自意識ばっかり過剰な女が見栄ばっかり張って目指したイラストレーターという
職業ですが、あの時のもがき方はひどかった。本当にぶざまだった。
それはやっぱり「肩書きとしてのイラストレーター」が欲しくて、絵を描く力を伸ばす
努力はそっちのけだったことが原因だったのかなあと36歳のわたくしは思ったり
するわけです。
25歳で初めて雑誌の仕事をしてから10数年たってしまいましたが、ようやく
今になって私はプロになったなあと思えるようになりました。
んでももう肩書きなんてどうでもいいや。みんなにイラストレーターのひとって
呼ばれなくてもまったくかまわん。

小さい絵を何かの紙に印刷してもらって、それを見た人がちょっと明るい気持ちになってくれれば、もうそれだけでいい。明るくなってくれる人が多ければ多いほどうれしい。

もうそれで。






(イラストレーター修行物語、これにておちまい~)